秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 耳朶を吐息が掠める近さで囁かれた内容もさることながら、彼が私に向ける強い眼差しに身震いする。まるで捕食者が獲物を追い詰めるみたいな目。しかも、その笑顔の黒さといったら半端ない。
 なんと答えたものかと兢々とする私を、アズフィール様は強者の余裕を滲ませて見下ろしていた。
「アズフィール様、いつまでもここで立ち話しているのもなんです。下でお茶でもいかがですかな」
 祖父から声をかけられると、アズフィール様は私から一歩分の距離を取り、爽やかな笑みを浮かべて祖父に向き直る。
 祖父に向けた笑顔と、さっき私に向けていた真っ黒なそれとの差に戸惑う。……なに? 私、なにか見間違えた?
 ……ううん、あの身も凍るような黒い笑顔は見間違いなんかじゃない! アズフィール様は爽やかな王子様の仮面の下に、魔王様も真っ青な性悪を隠してる! とんだ狸だ!!
「すみませんが伯爵、大叔母様、お茶の前に俺もメイサの灸を受けたい」
 なんですって!?
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