通り雨、閃々
バイブ音がして、スマホにメッセージが届いた。

『お疲れさまです。今週末はお時間ありますか?』

箕輪(みのわ)海斗(かいと)」の文字上に、誠実そうな面影を重ねる。

箕輪さんは、職場の先輩の大学の後輩で、先日仕事のイベントで知り合った。
背が高く、黙っているとかなり威圧感があるけれど、気さくで話しやすい人だった。

『このあと食事に行きませんか?』

仕事でもそうであるように、肩肘を張らないリラックスした態度でそう誘われた。
続けて

『ちゃんと下心はあるので、迷惑だったら断ってくださって大丈夫です』

と笑顔で言ってのけた。
共通の知り合いもいて、同い年でもあるのに、きちんと保たれた距離感が心地よい。
誠実がヒトの形をとったらああなるのだろう。

ご一緒させてください、と答えたら、

『ああ、よかった。すごく緊張したので』

と満面の笑みを見せる。
目がカーブを描いてなくなり、威圧感なんて吹き飛ぶほどにキュートだった。
もしこの人が詐欺師だったら、もう誰も信じられない。

案の定、箕輪さんは私の想像を決して裏切らなかった。
仕事終わりのビールが好きで、趣味はボルダリングで、弟と妹がいて、実家で飼っている犬のミルキーを溺愛している。
「下心がある」と宣言したにも関わらず、私をマンションの前まで送ると、連絡先だけ交換して帰って行った。

過去の経験が、恋の予感を告げる。

「でも沙羽に彼氏できたら遊べなくなっちゃう」

愛梨は尖らせた唇にお冷やグラスを運ぶ。

「そんな心配いらないって」

箕輪さんは、友人と会うと言ったら、きっと快く送り出してくれる。
愛梨に紹介しても、親に紹介しても、まったく心配のいらないひとだ。

休憩時間が終わりに近づいて、レジが混み始めた。
私も紙ナプキンで口元を拭い、バッグからお財布を取り出す。

雨は、弱まる気配もない。


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