不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
今日の料理は、シェフが私たちだけのために振舞ってくれる特別コース。繊細なフレンチの技法で食材の味を生かしつつ、その何倍もの美味しさが引き出されている料理の数々に、感嘆せずにはいられない。
普段はお子様ランチのような料理が好きな斗馬さんだけれど、そこはやはり剣先家の御曹司。高級な料理を味わう舌もちゃんと備わっていて、一品一品に感動していた。
「今が旬の食材は、やはり格別だな」
本日の魚料理、鰹のシアードを口に運んだ斗馬さんが、そう言って微笑む。
シアードとは、食材の表面をさっと炙る調理法。鰹のタタキに似ているけれど、複雑な味のソースを纏わせてあり、懐かしいようで新鮮な味だ。
「これは家で真似できないですね」
「それはそうだろう。簡単に真似されたら、シェフが廃業してしまう」
彼の冗談にクスクス笑いながらグラスを手に取り、鰹のような赤身の魚によく合うのだという年代物の赤ワインを口にする。舌の上で転がすように味わっていると、心地よく酔いに包まれる。
「大丈夫か、千帆。顔が少し赤いぞ」
「そうですか? 飲みすぎたかな……。お料理もワインも美味しいので、つい」
自分の頬に手のひらをあて、苦笑する。