毒令嬢と浄化王子【短編】
「それが本当なら、近づくなと警告するのも分かりますが……だからといって殿下のことを嫌っていないという証明にはならないのでは?」
 え?
「いや、だって、心配……してくれて」
「たぶん私が言っても同じことを言ってくれるでしょうね。山賊相手でも同じことを言うかもしれませんね。近づけば毒で酷い目に合うから近づくなって」
 ハーバンの言葉に、確かにそうかもと……。
 あれ?
「僕……嫌われてないよね?」
 心配になって口に出すと、ハーバンがぷはっと笑った。
「さぁね。どうですかね。普通は好きも嫌いも本音は見えませんからね。そうして悩むものです。殿下の場合嘘も隠しごとも相手が出来なくなってしまいますからね。人の心が読めなくて不安になった殿下の顔……くっくく」
 笑いごとじゃない。
 ああ、でもそうか。
 相手の気持ちが分からないと、こんなにも不安になるものなのか……。
 知らなかった。
「相手の気持ちが分からないから、普通の人は、好きになってもらおう、嫌われないようにしようと、色々努力するって知ってます?」
「努力、何をしたらいいんだ?」
「ちょっ、それ以上近づかないでください」
 思わずテーブルに身を乗り出したらハーバンが嫌そうな顔をする。そして、すぐにちょこっと浄化効果があったようで。

「すいません殿下。殿下の初恋に思わず嬉しくなってからかうようなことを言ってしまいました。お許しくださ……」
 え?
「初……恋?」
 ハーバンの言葉に息をのむ。
「ありゃ。無自覚だったか」
「え?いや、なんで?もしかして、僕はミリアのこと……?」
「そりゃぁ、ダンスを一緒に踊りたいんだろう?それに男たちが取り合ったことに嫉妬しただろう?」
 ……!
 そうだ。そして……。
「嫌われたくない……どうしたら、ミリアに好きになってもらえるかな……?」
 僕の言葉にハーバンがふぅっと息を吐きだす。
「その前に、浄化できそうなのかどうかだ。それによって、距離感は変わってくるぞ?私と同じように話をして一緒にお茶を飲んでは、まぁ出来るだろう。その先だな。婚約、結婚、世継ぎ、色々と考えないといけないことが」
 思わず顔が赤くなる。
< 14 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop