毒令嬢と浄化王子【短編】
「草むしり……じゃなかった、草取り……えーっと、除草、そう除草作業をしていたんです」
 青年が首を傾げた。
「除草作業?いや、別に堅苦しい言葉で話さなくてもいいよ?その、僕は、えーっと、大した身分の人間じゃないからね」
 大した身分の者じゃないなんて自分から言うけれど、平民ではないですよね……。もしかしたら子爵令嬢の私が敬うべき地位の人の可能性もあるんだ。例えば伯爵家次男とかで騎士みたいな感じ。うわー。私、随分失礼なことしちゃってるよ!突き飛ばしちゃったんだけど!にらみつけて、言いたいこと言っちゃったんだけど!
 どうしよう。だけど、当の本人が大した身分じゃないって宣言したし、家名も名乗ってないんだから……知らなかったということで。これからも知らないままでいいかな。
 心の中で冷や汗を流しながら、心のうちを見透かされないように顔には笑顔を張り付ける。

「それにしても、庭師が草むしりしてると草が山になっているけれど、まだ始めたばかりかい?」
 青年が畑に視線を向けた。
 庭師だって。庭師。庭師が雇えるような家の者って情報を得てしまいましたよ。どこの誰か分かるヒントをそのうち口にしそう……。
 知らないままでいるつもりなのだから、口を滑らせないでくださいよ?
「見ます?」
 近くにしゃがみ込むと、青年も私の隣にしゃがんだ。
 右手を握り、人差し指だけ出して雑草の根本近くに触れる。
 魔力を指先に集中すると、毒の濃度が指先だけ濃くなる。
 私の毒に触れた雑草はあれよあれよという間に枯れて、ポロポロとくずれて落ち土に還った。
「え?」
 青年が驚いて声を上げるのを無視して、次々に目についた雑草に触れていく。
 青々と肉らしいほど立派に芽を出し作物の邪魔をしていた雑草たちが、私の指先が触れたとたんに消えていく。
 草を枯れさせる薬を使ってもこれほど早くに枯れて消えやしないだろう。一体、私の体の毒は本気を出すとどれほど強いものなのか……。
 今、青年はどんな顔をしているだろう。
 私のあまりにも強い毒に恐怖し青ざめているだろうか……。
 それとも、バケモノめと蔑むような顔をしているだろうか……。
 ズキリと彼の反応を想像して胸が痛くなった。
 今さら、誰になんと思われようともどうでもいいと思っていたのに。
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