【完結】終わった恋にフラグはたちません!

「あ、はい。勝手にすみません」
「いや、あ─……なんかこっちもごめんね、変なもの見せて。気持ち、悪かったよね─」

こうなったら自虐的なことを言うしかない、この時の僕はそんな考えしか及ばない。大抵こういう時の反応はわかっている。
──でも予想外なことに彼女はそんな僕の言葉にキョトンとした様子を見せていた。

「少しビックリはしましたけど……何で変なもの、なんです?」
「え、それは、だって──」

思いもしなかった言葉に僕は咄嗟的に彼女を真っ直ぐ見つめた。

恥ずかしさもあり、あまり彼女の方を直視できていなかったが、よく見ると高校の制服を着ていた彼女は背が高いということ以外は司とは少し様子が違っている。黒髪でおカッパの髪型に眼鏡をかけ、目線はやや伏し目がち、話すトーンも落ちついててどこか大人びた感じ。僕と話してても目線はあまり合わせてこない。

「……むしろ羨ましいです。この世界で好きになれる人がたくさんいるってことですよね。──そしたら自分を好きになってくれる人だってどこかきっといるはずだと思うので……私は羨ましいな」

──羨ましい……僕が?

彼女の言葉を聞いて驚くばかりだ。そんな風に考える人がこの世にいるなんて。
何だかずっと重く背負っていたものが、彼女の言葉で少し軽くなったような気がした。

呆然として彼女を見つめていたその時、突然、司の部屋の扉がバンッ!──と大きな音と共に勢いよく開く。

「ごめん!! ゆう。彼女が急遽来ることになった!……って、伊織も一緒だったのか?」
「はぁ? お前……彼女いたのかよ!?」
「兄は半月前に初カノができて、今ちょうど浮かれている最中なんです」
「お、おい、伊織! 余計なこと言うな、お前は部屋帰れよ」
「はいはい」

そう言って、彼女は自分の部屋へと戻っていった。

それからの僕はというと、司への告白は止めて、今まで通り友人として接することにした。
そうしようと思ったのは、司に彼女がいると知って告白する勇気も失せていき、失恋したということもある。──けれど、それよりももっと他に興味の引かれる人物に出逢ってしまったからなのかもしれない。

彼女と逢ったのは、実はこの時が初だったのだけれど、彼女はこの時のことを全く覚えていない。

あの時の飲み会で逢ったのが初めてだと伊織は今だに思っている。

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