【完結】終わった恋にフラグはたちません!
第十三話 ★ 八年ぶりの誘惑後(祐一side)

夜が明けていき、遮光カーテンを閉め忘れた窓からは少しずつ日の光が差し始めている。

それは八年ぶりに幸せを噛みしめる朝。
僕の横にはスヤスヤと気持ち良さそうに眠る伊織。

正直、自分の我慢や理性が限界に達していたとはいえ、伊織とこういうことになってしまったことに少し後悔を抱いていた。
いや、後悔と言うよりも後味の悪さというべきか。
お酒に酔っていて相手の理性も曖昧な時に、自分の身勝手さで伊織を抱いてしまったことに……

昨日はあれから一睡もできずに伊織の寝顔をずっと眺めていた。可愛い寝顔を見ていると何度でも襲ってしまいたくなる自分の衝動が恨めしい。

──気がついた時から僕はバイだったけれど、伊織と出逢ってからはとっくの昔に僕の気持ちは10:0(じゅうぜろ)になっていた。当然、伊織にしか10:0にはならない。

ハァ─……昨日の夜はすごい幸せな気分だったのに、冷静になってこれからのことを考えるとかなりの動揺。
伊織が目覚めた時、僕との関係に気まずくならないかものすごく心配だ。……でももしかしたら逆に、今回のことで伊織もまた僕のことを意識してくれるとありがたいんだけど……
それは良いほうに考え過ぎか。

まだ朝早いがもう眠れそうにもない。僕は静かにベッドから起き上がり伊織を起こさないようリビングへと向かった。

今日はオフだし特別やることもないな。
ご機嫌取りじゃないけれど、朝食は僕が作ってみようか。結局、昨日の夜……もう朝方に近いけど眠ったのも遅かったし、加えて伊織はきっと二日酔いのはずだ。
それに朝食が用意してあるだけで、昨日の気まずさが少し軽減されるかもしれない。

冷蔵庫を開けると、卵に牛乳、バター、それに中途半端な野菜がゴロゴロと入っている。思ったより何も残っていなかったが、その食材を確認した僕はエプロンをつけながら頭の中で献立を組み立て始めていた。

そんなに難しくもないし、フレンチトーストと残っている野菜で野菜スープでも作ろう。

意外に手際よく準備も進み、料理も後はフレンチトーストを焼くだけというところで、一旦ソファーで心を落ち着かせ伊織が起きるのを待った。

そして、それから一時間半後……眠りから目覚めた伊織がリビングへと入ってきたのである。

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