【完結】終わった恋にフラグはたちません!

全ての洋服を着終え身なりを整えた後、僕は興奮している彼女の方へ向き言い放つ。

「確かに一般的な男はそうかもしれないけれど、僕は自分の妻にしか欲情しないし好きにもならない」

記憶はなくともそこは絶対的な自信がある。自分がバイっていうこともあるのか、昔から男女とも全く興味のない人に対しては酔っていたとしてもそういう気は起らない。
ましてやもう僕には伊織しか目に入らなくなっているし。

ベッド横にあるサイドテーブルにお金をそっと置き、僕が部屋を出て行こうとしたその時だった。
突如、彼女がスマホを出して僕にある写真を見せてきたのである。
それは裸のままベッドに眠っている僕と高光 杏の写真。

「これ、奥様に見せたらどうなるんでしょう? 三栗谷さんはそういう強気な態度でも、奥様は少なからずショックを受けられるのでは」
「別に…見せたきゃ見せればいい。彼女はそんな軟な人じゃない」
「ちょ、ちょっと待って三栗谷さん!
……私、三栗谷さんがすごい好きなんです! お願い、奥様とは別れて……じゃないと私、奥様に何するかわかりませんよ」
「…どういう意味だ」

何をさっきから勝手なことばかり言ってるんだ彼女は? 話が全く通じないし……伊織をどうするって言うんだ。

「もう、三栗谷さんこわ─い!
……私って─、欲しいものは何としてでも手に入れたいタイプなんですよ…それが人のものなら尚更。三栗谷さん知ってます? 斑目(まだらめ)組って」

……斑目組って──確か、そんなに大きくはないがこの界隈に巣食っているあまり良い噂を聞かない暴力団の名前。

「さすが三栗谷さん! その顔は知っているみたいですね。
──周囲には隠してるけど私、そこの斑目組長の一人娘なんですよ─。私がパパに頼んだら大事な奥様、どんな目に合っちゃうんでしょうかぁ─」
「…………」

彼女はベッドから起き上がり裸のまま僕の背後にゆっくりと近づいてくる。そして後ろから抱きつき腕を僕の体に絡め、更に自分勝手な言葉を言い放つ。

「ねぇ、三栗谷さん。奥様と離婚して私と付き合って。…そうしてくれたら奥様には手を出さないから」

彼女は痛い所をついてくる。
今までの話の流れで僕のどこを攻めれば自分の手中に落ちるのかがよくわかっている。
何よりも伊織にもし何かあったら僕が生きていけない……

怒りが込み上げてきて拳に力が入る。
彼女の絡めてきた腕を払い除けた僕は出口へ向かって歩きながら一言だけ彼女に返答した。

「…………一週間、考える時間をくれ」
「フフッ、良いお返事待ってますね、三栗谷さん」


──そして二か月後……考えた末、僕は伊織に離婚届を差し出した。



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