初恋ディストリクト

 8
 ◇澤田隼八の時間軸

 栗原さんの世界では僕の存在はどうなっているのだろう。

 多分、僕があの事故の犠牲者になっているような気がする。

 栗原さんはあの事故で中高生の学生がひとり亡くなったと言っていた。

 栗原さんが事故に遭わなかったのなら、当事バス停で待っていた中高生と言えば、僕しかいなかった。

 あとは子供連れの母親や年寄り、僕よりも大人か子供がバスを待っていた。

 バスに乗らない選択をして遠ざかる栗原さんを僕は追いかけて移動したのかもしれない。

 その時、どこに自分が位置していたかで生死を分けたような気がする。

 あの事故がもし起こらなかったら、僕は栗原さんを追いかけて声をかけていたのだろうか。

 過去の事はどうしようもないけど、もし事故が起こらなかった世界線があるのなら、そこで僕たちは青春を謳歌していて欲しいと願う。

 また僕が強く願えば、そんな世界も存在しうるかもしれない。

 僕は晴れた青空を仰いでふと笑った。
< 86 / 101 >

この作品をシェア

pagetop