冷血公爵様が、突然愛を囁き出したのですが?
 私がこの公爵家に嫁いできたのは一年前の事。当時の私の年齢は二十歳。公爵様は二十八歳だった。
 私の父は二年前、事業に失敗して多額の借金を背負った。
 男爵の爵位が剥奪されるのも時間の問題と思われていた時、借金を肩代わりすると言い出したのが公爵様だった。
 その代わりにと、私との婚約話を持ち掛けて来た。

『冷血公爵』
『人の血が流れていない殺人鬼』
『気に入らない者は拷問して殺す』

 他にも身の毛のよだつ様な噂が後を絶たない公爵様と、結婚したがる貴族令嬢は見つからなかったらしく、借金に苦しむ私の家に目を付けたらしい。

 話を受けたお父様は、私の意思を確認することなく、喜んでこの話を受け入れた。
 お父様は、既に亡くなっている私のお母様の再婚相手で、私を愛してなどいなかった。
 多額の借金を清算しようと、結納金を多く納めてくれそうな人を、私の嫁ぎ先にしようと躍起になって探していた。
 そこに舞い込んできた、公爵様からの婚約の申し出は願ってもいなかったに違いない。

 そうして婚約した私達だったけれど、公爵様は結婚までの半年間、私に一度も会いに来る事は無かった。
 結婚式も、ただ書類にサインをする形式だけの結婚式。参列者は私の父親と、屋敷に仕える数名の使用人だけだった。
 
 結婚して一緒に暮らす様になってからも、会話をするどころか、顔を合わせる事も殆どなかった。
 屋敷の中で偶然会っても、興味なさそうに顔を逸らされ無視された。
 食事は別々。私は食堂に案内された事は無く、無愛想な使用人が、冷め切った料理を部屋まで運んできた。
 屋敷の使用人達も私とほとんど口を聞く事は無く、公爵様に無視される私を見て密かにほくそ笑んでいた。
 
 まるで私なんて存在しないかの様な振る舞いを見せる公爵様。
 だけど、月に一度だけ私を寝室に呼んだ。
 そういう時の公爵様は、決まってお酒の香りを漂わせ、虚ろな様子で少し不機嫌。
 そして私と目を合わせること無く、まるで作業の様に、子供を成すための行為をした。
 
 愛される事なんて、期待しても無駄なだけ。
 公爵様にとって、私は子供を産むためだけの道具にすぎないのだから――


 
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