冷血公爵様が、突然愛を囁き出したのですが?
「えっと……私と公爵様は既に結婚していますので……もう一度結婚するというのなら、一度離婚をしませんと――」
「それは駄目だ!」

 公爵様は勢い良く立ち上がると、私の両肩を力強く掴んできた。

「きゃ!?」
「あっ……すまない! つい……君が離れて行ってしまうと思ったら気が気じゃなくなって……本当に申し訳ない」

 公爵様は慌てて手を放すと、今度は優しく包み込む様に私を抱きしめた。
 
 あの公爵様が……あやまった?
 決して自分の非を認めない。人に謝罪する事など無いと有名な公爵様が、今謝りました?
 
 しかも何故か抱きしめられてるこの状況。
 頬に少しだけ触れている公爵様の胸元からは、物凄い速さで鳴り響く心臓の鼓動が聞こえてくる。
 
 やっぱり熱は相当高いみたい。
 
「公爵様……病み上がりですので、まだお体が本調子ではないのでは? とりあえず、もう少しお休みになられてから――」

 恐る恐る近寄って来た男性の使用人が声をかけてくると、公爵様の目付きは瞬時に鋭く変わった。
 それはいつも私を見ていたのと同じ。氷の様に冷たい瞳。
 だけどその瞳は、今は私ではなく声を掛けてきた使用人へと向けられている。

「うるさい。僕は今、マリエーヌと話をしているんだ。口を挟むな」

 ゾッとする程の不機嫌な声に、声をかけた使用人の顔は怯える様に真っ青に染まっていく。
 更に公爵様の瞳は鋭くなり、憎しみを込める様な口調で言葉を続けた。

「ああ、なんだお前か。お前はもう明日から来なくていい。荷物をまとめて今すぐにこの屋敷から出ていってくれ」
「はい?」

 突拍子もなく公爵様の口から出て来た解雇発言に、当人だけでなく、他の使用人達もざわつき出した。
 それを気にする様子もなく、更に公爵様は他の使用人達へと目線を移した。
 
「あと、お前も。そこにいる侍女達も全員だ。ここにいない奴らにも後で伝えよう。一度しか言わないからよく聞け。今すぐこの屋敷を出て、二度と僕とマリエーヌの前にその姿を見せるな」
 
「な!?」
「なんですって!?」
「どういうことですか旦那様!? 私達が一体何をしたというのですか!?」

 使用人達が次々と抗議の声を上げるが、公爵様のひと睨みでシン……と静まり返った。
 
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