成果報酬有りの家庭教師にイケメン弟の写真というにんじんを鼻先にぶら下げられて、もう走るしかない。
 必死にそう訴えても、折原くんの歩みは止まらない。日当たりの良い中庭はお昼休みには、人気スポットだ。大勢居る生徒たちが何だ何だとこちらに注目している。

 このまま何処に、行くんだろう。

「アイドルって……俺、ただのDKだし。リスクヘッジだって言い訳して、ひまりに声掛けるのを躊躇ってたくらいにはヘタレだし? 良い加減、目を覚ましてよ。俺は、同じ歳のただの同級生だって」

 あれよあれよと言う間に連れてこられたのは、体育用具倉庫だ。折原くんがガラリと引き戸を開ければ、薄暗い室内に埃が光を反射して舞っているのが見えた。

 私が続いて入ったのを確認すると、折原くんはきっちりと扉を閉めて大きな閂錠を掛けた。

「……俺の写真って、何枚くらい持ってんの?」

 彼の意外な質問に、私は目を見開いた。そうか。日本には肖像権というものが存在している限り、本人の意に沿わぬ写真画像を私が持っている訳にはいかない。

「えっと……えっと、ちょっと待って。すぐに削除するから」
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