男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
 彼の錯乱については回避できたし、解けたら解けたで彼も正気に戻るはずだ。

 うんうんと元の調子に戻ったエリザを眺めていたセバスチャンが、なぜか憐れむような目を向けていた。

 というわけで厨房へ向かう。

 小食のエリザは、公爵邸で寝泊まりするようになってから自分のペースで厨房の休憩室にお邪魔し、軽食をもらっていた。

「うわー、まかないにしては豪華!」
「まぁ【赤い魔法使い】様ことエリオ様には、いい食事をとは言われてる。細すぎだぜ」

 料理長のサジが、奥にある作業台の向かいに座った。

 エリザは『雇われ治療係なのに申し訳ない』と思いつつ、一人旅だと滅多に食べられない肉料理を口に入れた。

 暇をしているサジに、日中のクリスティーナのことを教えたらすでに聞いていると言う。彼もまた、微妙な眼差しでエリザを見ていた。

「最近はとくに、明らかにアレなんだと思うんだけどさ……そうだよな、知らない方が、短い間でも心は自由でいられるよな」

 まるで意味が分からない台詞だった。
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