王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜

文化の違い

 ラルサスが初めてダンバー王立学院の教室に入ってきたとき、キャーッという黄色い声が湧き起こった。
 ここには貴族しかいないが、先だての舞踏会に出席した者ばかりではなく、ラルサスを初めて見た者が多かった。
 今日の彼は民族衣装を脱いで、ブレザーの制服を着用している。

 騒がれるのには慣れているラルサスは、よそいきの顔でふっと微笑んだ。
 その甘いマスクに心を撃ち抜かれた女子が多数。
 それを面白くなく見ている男子生徒も多数。
 シャレードはなんの感情も見せずに、ただ座っていた。
 カルロは一つ上だから、このクラスではない。

『相変わらず、モテるね〜』
『うるさい。割と面倒くさいんだぞ?』
『ハハハ、知ってる~』

 ふよふよと物珍しげに教室を飛び回るフィルと心の中で会話して、ラルサスはぼやいた。
 フィルとはある程度、距離が離れても会話できる。

 ラルサスは別に女嫌いなわけではないが、必要以上に女性が群がってくるのに辟易していた。
 彼はどちらかというと物静かに過ごしたいたちだったし、男子と話している方が気楽でよかった。
 ぶっきらぼうに振る舞えばいいのだろうが、性格的にできなかった。
 彼が婚約者を決めないせいで、彼の争奪戦が加熱したという面もある。自国では彼を巡って、女の戦いがしばしば繰り広げられていた。

(ピンとくる子がいなかったんだから、仕方ないじゃないか)

 ヴァルデ王家の人間は、彼のように精霊付きで生まれてくる者がたまにいた。
 その者は不思議な力を持ち、伴侶を直感で選ぶことが多かったし、その子どもも精霊付きで生まれる割合が多いことから、それを許されていた。
 そして、精霊の存在は国家機密として秘匿されている。

「ラルサス・ヴァルデと申します。この度は名高いダンバー王立学院で皆さまとともに学べる機会をいただけたことをとてもうれしく思います」

 自己紹介をしながら、ラルサスの目はさまよい、シャレードを見つけた。
 窓際で静かに彼を見ている。
 陽射しが彼女の髪や瞳を輝かせ、発光しているかのように見えた。
 画一的な制服を着ていても、いやそれだからこそ、目を引く。

(改めて見ても美しい。いや、それ以上に惹かれる)

 どうしても彼女を見る目に熱がこもる。
 こんなことは初めてだった。

『まさか彼女が俺の……』
『いやいや、王太子の婚約者だよ? ムリでしょ?』

 本来、人間の理とは無縁に生きている精霊に諭され、ラルサスは苦笑した。

『そうだな』

 引き剥がすようにシャレードから視線を外した。


 *――***――*

< 4 / 13 >

この作品をシェア

pagetop