王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜
 休憩時間ごとに女生徒に囲まれ質問攻めにあっていたラルサスを、他人事だとシャレードが遠目に眺めていたら、なんと彼は昼休みになるとすぐ、シャレードのもとへ来た。

「シャレード様、よかったら、校内を案内してもらえませんか?」

 ラルサスの言葉に女生徒がざわつく。
 シャレードはクールな水色の瞳でラルサスを見上げた。
 刺すような視線を浴びて、正直迷惑にも思った。

「私でなくても、喜んで案内してくれる方がいくらでもいるのではないでしょうか?」
「あなたは喜んで案内してくれないのですか?」

 ちらっと遠巻きに見ている女性たちを見てシャレードが言うと、ラルサスがからかうように首を傾げた。
 軽くウェーブした髪がさらりと揺れる。
 ハンサムな彼の誘いを喜ばない女性はめずらしい。
 翠の瞳がシャレードの反応を見て、面白そうにきらめいた。
 それを綺麗だと思いながら、シャレードは首を振る。

「いいえ、とんでもございません。ただ、私より適任がいるのではないかと思ったのです」
「あの中から、一人なんて選べませんよ。それに変に誤解される行動を取りたくない」
「なるほど、それで相手の決まっている私が都合がいいというわけですね」

 シャレードは納得してうなずいた。

 それは半分正解で半分不正解だった。
 ラルサスはここへは学びと調査に来たのであって、婚約者を見つけにきたのではない。下手に女性に関わって、時間を取られたくないという気持ちは本当だった。
 しかし、一番はシャレードともっと話してみたいというただ単純な理由だった。
 クラスメイトとして興味があるだけだと、ラルサスは自分をごまかした。
 
「それでは、まず食堂にご案内しましょうか」
「頼みます」

 シャレードとラルサスは連れ立って教室を出た。


 このダンバー王立学院は、校内では生徒は平等な立場であるべきだという理念から、王族といえども特別なサロンが用意されることなく、食堂で食事をとることになっていた。
 そのせいで、シャレードにとって、食堂は居づらい場所だった。 
 彼女がラルサスを案内し、食堂に入ると、中ほどの席で両脇に女子生徒を侍らせたカルロがいた。
 ちょうど女の子がカルロにスプーンを差し出し、食べさせているところだった。
 パクリと食べたカルロはにやけて、彼女の耳もとに口を寄せた。なにを言われたのか、彼女は赤くなり、今度は反対側にいた女の子が対抗するようにカルロにスプーンを差し出した。

(やっぱり今日も……)

 それは日常風景だった。
 ラルサスも気づいて、目を瞬いた。
 シャレードは恥ずかしく思ったが、なにも言わず、料理の置いてあるカウンターに向かった。
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