エデンの彼方でいつかまた
「訊いてください山吹社長。その男の人が……」

留乃が泣きそうな顔で上司に訴えたが、女性は一瞥しただけである。
冷たく姿勢も変えず、留乃はビクリとして口をつぐんだ。

「銀珠(うんじゅ)。おまえの何かなのか、こいつらは」
「ええ。恥ずかしいけれど、私の会社の一応、幹部のご子息とご令嬢よ。今日の婚約の仲人役。あなたもね」
「ああ。そういや、そんな話をしていたな」

二人は知り合いらしい。
そのタイミングで中年のふたりが近寄ってきた。

「おい、なにをしているんだ。時間はまだ早い……」

留乃と学武の父親である。
勝手に見物で店内へ入った子供の様子を、見に来たのだろう。

「よくも私の顔を潰してくれたわね」

銀珠の冷たい瞳と声が氷の鞭となり、幹部部下を叩いた。

座り込んた息子、立ち尽くす娘、震えている瑞希。
その状況を見て理解したのか、学武の父親は顔を蒼くさせた。

「まさか学武! おまえ、また……!!」

銀珠はため息をつき、美しい白い指で額を抑える。

「確かあなた、入社した頃にも騒ぎがあったわね」

入社直後突然、数人が退職し代わりに学武の役職があがっていった。
学武のそれまでの経歴は不明で、それ以降も噂のある男だ。

「暴力的な息子さんみたいね。ちょっと、考えさせてもらうわ」

その言葉に思い当たる節があったのか、学武の父親は即座に土下座した。

「山吹社長! も、もうしわけございません!」

学武の父親は額を床に擦りつけている。

「今までもみ消してやったというのに、このバカ息子が!! 侘びろ!! 愚か者!!」

座り込んで茫然としている息子の後頭部を掴み、冷たい廊下に抑え込む。


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