悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。





「それでどうかされたのですか?」



 こうしてゆっくりと誰かと話す時間が少なくなり一人を感じていたファウラにとって、エルディンの声掛けが全身に安らぎを与えてくれた。

 自然と口が開き、先ほどまでの思いを一気に吐き出すと、胸を撫で下ろすようにほっとした様子のエルディンは小さく笑った。



「良かった。もしかして陛下に振り回される事に疲れて、婚約を破棄したい……なんてこと言い出すのかと思って心配していたよ」


「そんな!ルイ……陛下と離れたいなんてこれっぽちも思ったことありません!」



 全力で否定するファウラに、エルディンは一つ頷いて空を見上げた。



「その様子であると、陛下もまた同じようにファウラ様を想っていますよ。それに恋しくなって泣いてしまうのは、決して愚かなんかじゃありません。それ程深く相手に落ちている何よりの証拠です」


「ルイを想う証拠……」



 言葉の力に引き寄せられるように繰り返して呟くファウラに、エルディンはしっかりと向き直り、真直ぐな目で見つめた。
 


「ええ。一人では見つけることの出来ない世界を見つけたんですよ。だから……大丈夫です。その淋しさは貴方様を強くする、大切な気持ちです。陛下と共に、見たこともない素敵な世界へと導く力になりますから、どうかこの時間を悲しまないでください」




 辿り着いた馬小屋の前で、エルディンはファウラが大事に握り締める髪飾りを優しく手に取ると、いつも着けているところに髪飾りを留めた。




「貴方様の笑顔が少しでも見ることが出来るよう願っています。それでは、私はここで失礼させていただきますね。またお会いする時は、二人並んだ姿を楽しみにしていますね」



 近くに居た馬丁に声を掛け、エルディンの存在に慌てる馬丁達に爽やかな笑みを残して去っていく彼に、心から感謝の気持ちを込めて見送った。




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