悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
ドレッサーの前へと座らせて、どう見てもそこまで乱れていない彼女の髪を一本ずつ丁寧に梳かしていく。それもかなりの時間を掛けて。
花嫁衣装に似合う髪飾りを選ぶのも、迷いの少ないファウラにはこれと直ぐに決めるが、侍女達はあれもこれも似合うと選択肢をわざと増やしているようだった。
何か怪しい。だたそれを探るにも状況が悪すぎる。
ここは大人しく様子を伺うことに徹底したファウラは、侍女達にされるがままで時間を過ごした。程なくして、一人の侍女が入ってくるとあれだけ髪に執着していた侍女達は満足だと言うように、ファウラを解放した。
最初に選んだ髪飾りを着けて部屋を出たファウラは、何やら騒がしい城内の音を聞き逃さなかった。
「あの、これから陛下の元に?」
「は、はい!ですが、す、少し緊張が解れるように庭園を見てからむかいましょうか。おほ、おほほほ……」
引きつった笑みを無理やり浮かべて案内する侍女は、今にも逃げ出しそうだ。
なにがどうなっているのか、後でしっかりと説明をしてもらう必要がありそうだと、ファウラは溜め息を零しそうになるのを堪えた。
無駄な遠回りをしていることは薄々感じ取っていた。何かの時間稼ぎだろうと予想はしていたが、目的地の部屋の前に辿り着くとその時間稼ぎはどうやら間に合わなかったらしい。
失望した表情で侍従が部屋の中へと、ファウラを通す。
豪奢な部屋一面に広がる窓が、床の大理石を眩しく輝かせた。真っ赤な絨毯の上を再び歩いていくと、垂れ幕の下で威圧的な玉座が、主が座るのを今か今かと待っていた。
寂しそうに光る玉座は、もぬけの殻。
そう――ここでも国王の姿がなかったのだ。