それは手から始まる恋でした
「それは」
「仁ちゃん、時にはプライド捨てることも大事だよ。大切ならプライド捨ててでも取りに行かなきゃ。はぁ、僕ってすっごくいい人だよね。僕は仁ちゃんと紬が結婚しても遠慮なく紬に会うからね。それじゃぁ」

 永井さんとの会話がなかったら俺は慰安旅行なんて考えもしなかった。連休中紬に予定がないことは永井さんに確認済みだ。不動産を巡る予定らしいがそんなものは必要ない。二人で住む家なら俺がすぐに契約する。

 旅行1日目はまあまあだった。酔って寝てしまった紬をベッドに運び隣で寝ようとしたが、煩悩に勝てそうになかったので布団を用意させ紬が作ったトンボ玉を握り締めながら眠りについた。

 2日目は鮫島のお陰で嫉妬する紬が見られた。そしてやっと紬と手を繋いで散歩することができた。ようやくその時がやってきたのだ。何もかもが準備されていたかのような展開だった。

 俺は彼女を抱きしめた。キスがしたい衝動を必死で抑えた。気持ちを伝え、紬からOKをもらえた。幸せだ。すぐにでも彼女を押し倒したいが今は外だ。我慢しなければと必死で欲望を抑えた。キスしてしまえば理性が吹っ飛ぶ。

 ビール工場まで戻ってタクシーに乗った。隣に座る彼女の頬に触れたい。唇を奪いたい。でも我慢だ。手で我慢だ。

 あんなに好きだった手で我慢って俺はどうしたのだろうか。
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