それは手から始まる恋でした
「あはは。動揺しまくり。もう一度だけしてあげようか。嫌だったら殴っていいから」

 高良は歩み寄ってきた。こんなに綺麗な顔の人とキスができるのはもう一生ないかもしれない。31にもなって経験がないなんて周りには私くらいだ。世の中には沢山同じような人がいるとは聞くが実際に会ったことがない。
 触られる感触、キスの感触、そしてキスの先にあるもの。全て漫画やドラマの中でしか起こらない、頭の中だけで展開される妄想の世界だった。それを彼は教えてくれるのだろうか。でも彼は遊び人だ。私が一方的に舞い上がって傷つき、自滅する。

 私が考えている間に高良の顔は体感距離5㎝。

「わ、私、彼氏以外とはしません!」
「そっ。じゃあ俺と付き合え」

 手遅れだった。私の唇は彼の唇で塞がれた。優しく甘い彼のキスは全ての思考を停止させ、本能のまま彼を受け入れていった。暫くすると彼はキスをしながら私を立ち上がらせて机の上に座らせた。なんて器用な人なんだろうか。そうか。彼はあまたの女性とこんなことをしているのか。多くの女性が彼のこの甘い舌使いの虜に……虜に?!

 私は何をしているんだ!

 私は彼を突き飛ばした。

「痛った。何すんだよ」
「すみません。違うんです。私は遊び人じゃないんです」
「知ってる。俺もちょうど彼女も身体だけの関係もいない。グッドタイミングだ。だから波野さんも彼氏と別れて俺以外の男にその手を触らせないこと」
「な、何言ってるんですか?」

 全くついていけない。

「彼氏と住んでるなら今日から俺の家に来てもいい」
「あの、全く意味が分からないのですが……」

「だから今日から俺は波野さんの彼氏だ。彼氏以外とキスはしないって言ったのは彼氏になれってことだろ。この俺が彼氏だよ。波野さんに勿体ないくらいの男じゃないか」

 自分で言うか普通。

「はぁ……御曹司って許嫁とかいますよね?」
「人によるんじゃないか? それに俺にいたとしてもそれは関係ない」
「関係ないとかじゃなくて。許嫁は彼女いや婚約者ですよ。これだから男は」
「あ、差別発言。男も女も関係ないだろ。つべこべうるさい。今日から俺の家に来るのか? その前に今すぐその男と別れろ。二股女は最低だ」
「あのね、私は二股もしてないし、別れる彼氏もいません」
「やっぱり嘘だったか。よし、ご褒美だ」

 高良は私を引き寄せ優しくキスをした。
< 14 / 118 >

この作品をシェア

pagetop