それは手から始まる恋でした
好きになんてなりません
 高良は諦める様子もなく、私に近づいてくる。何とかうまくかわしているが、それもいつもまで持つのだろうか。

 高良が私のことを好きじゃないのは分かっていたが、どこかで期待していた。遊びでもなんでも高良が私のことを好きだという気持ちが少しくらいあれば私も少しは楽しめただろうが、彼が求めているのは明らかに私の手だ。

 鮫島さんのように可愛い女の子らしいネイルもしていないし、CMに出てくるようなすらっと指の長い綺麗な手でもない。爪は綺麗に研いで艶を出しているがこれは私の趣味であってネイルサロンで仕上げた爪とは比較にならない。ただ、手に肉付きはあるものの、小さくて子供みたいだと女子から良く触られていたくらいだった。それ以外はなんの特徴もない手。

 もしかしたらこの指輪がなければいくら手フェチでもあの時と同じ人だと高良が気づくことはなかったかもしれない。幸せを呼ぶために着けてはいるが、手だけを求める人を呼び寄せるとは困ったピンキーリングだ。

「今日お客様と会食だから同席よろしく」

 仕事をしていると高良が話しかけてきた。

「この間も言いましたが、英語全く分からないんです」
「笑って座ってろ。必要な指示は俺が出す」

 海外のサプライヤーが来日し、今日はその人たちとの会食だ。部長、課長、高良さんのメンバーなので使いぱしりが必要なのだろうが、私だけ英語が理解できない状況が不安で仕方がない。

「あの、鮫島さんが今日空いていると言っていましたよ」
「鮫島は関係ないだろ。これは俺の仕事だ。俺の補佐はお前だ」

 たまにお前呼ばわりされる。お前と言う時は完全に聞く耳持たない状態だ。この数週間で少しずつだが高良のことが分かってきた。

「分かりました」

 会食開始時間の30分前に料亭についた。日本料理が好きな彼らの為におでんが有名なお店に予約を入れていた。私は一人寒空の下で待っていた。
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