それは手から始まる恋でした
「波野さぁん外寒いのに汗びっしょりぃ。寝坊ですかぁ?」
「そ、そうです。寝坊です。仕事はじめます」

 私はぎりぎりセーフで席に着き仕事を始めた。昨日とは打って変わって仕事に集中できた。港との一件も高良に正直に話すことができてすっきりしたし、高良は朝からあの感じ。もう何も心配はない。

 それからは変わらない日々。高良が触れるのは私の手と唇だけ。それ以外、服の上から以外触れてはこない。服の上からと言っても熱を出したときに揃えてもらった肌触りが良いルームウェアを着ているのでその生地を堪能しているだけで手に触れるような大人な触り方ではない。

 私の部屋の荷物も運びだされて転居届も出し、本格的な同棲生活が始まったというのにこの状況。

 そして早速高良は海外出張。前から決まっていたので分かってはいたが寂しい。寂しすぎる。

「波野さぁんどうしたんですかぁそのクマぁ? 夜遊びですかぁ? いい年なんだし顔に出ちゃいますよぉ」

 イラっとするが鮫島さんの攻撃はもう慣れた。

「鮫島さん今日暇ですか?」
「今日ですかぁ? まぁたまたまぁ暇ですけどぉ」
「飲みに行きませんか?」
「誰が来るんですかぁ?」
「2人でです!」

 鮫島さんなら経験豊富そうなので色々教えてくれそうだ。

「嫌ですぅ」

 断られた。そうだよね。彼女はそんな子だったよ。

「何? 波野さん飲みに行きたい気分なの?」
「戸崎さん」

 戸崎さんはダメだ。高良に2人で飲みに行ったとバレたらどんな顔されるか。

「高良から波野さんの歓迎会は禁止って言われていたから、飲みに行けてないし俺付き合うよ」
「禁止ですか?」
「そう。理由は教えてくれないけど禁止だって怖い顔で皆に言ってた」

 何故禁止されるのだろうか。歓迎するなと言う事か?

「私も波野さんと飲みたいって思ってたんですぅ。ご一緒していいですかぁ?」
「さっき嫌だとか言ってなかったか?」
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