それは手から始まる恋でした
「そんなことぉ言ってませんよぉ。酷いなぁ」
「ごめんごめん。俺の聞き間違いか」

 いいえ、聞き間違えではありません。私もこの耳でしっかり聞きましたから。でも鮫島さんがいるなら二人きりじゃないし、私が飲み方に気を付ければいいわけで今回は大丈夫だろう。

「じゃあ行くか」
「ありがとうございます」

 仕事を終えた私たちは戸崎さんが予約を取ってくれたお店に移動した。

「ごめん、席狭いな。金曜だし急だったから中々空いてなくて。それにしてもまさか2人席を3人にするとは……」
「大丈夫ですよぉ」

 鮫島さんはここぞとばかり戸崎さんに密着している。1人席にしては余裕があるが、大人2人だと窮屈だ。

「鮫島は波野さんの隣に座った方がよくないか?」
「えぇ。だってぇ波野さんの歓迎会で波野さんが窮屈な思いするの可哀そうじゃないですかぁ」
「それもそうだな。じゃあ乾杯!」

 戸崎さんが来てくれて嬉しいが、鮫島さんに聞きたいことが中々聞けない。鮫島さんは戸崎さんの恋愛遍歴を巧みに聞き出している。

「えぇ意外ですぅ。戸崎さんってもっと肉食な気がしてましたぁ」
「いやいや。仕事はガツガツ行けても恋愛はどうも上手くいかないんだ。それに年を取るにつれて相手も結婚考えるだろ。本当にこの子でいいのかなって考えると中々手が出せなくなってきてね」
「そうなんですか? それは年の問題ですか?」
「まぁ勝手にこっちが考えているだけだけどね。20代前半とかならまだ結婚って考えてなくても20後半30代なんて言ったら結婚がちらついてくる頃かなって。そんな子と付き合ったりしたら俺も結婚することになるけど、本当にいいのかって思うとね」

 そうか。私は結婚願望があると思われていて高良もなかなか手が出せないのかもしれない。いや、そもそも私に魅力がないから手を出さないだけのような気もする。

「女性に魅力があってもそうですか?」
「魅力? まぁつい手出してしまうこともあるかな。男は本能のままに動いちゃう時があるからね。そんなときはしまったって思うよ」
「魅力があったら手は出すんですね」

 結婚どうこうの前にやはり私は魅力がなくて、本能よりも理性が勝つのか。

「あの、魅力って何ですか? セクシーな下着とかですか? いや下着は見せないと意味ないですよね」
「あはは。波野さんどうしたの? 俺ならすぐに抱いちゃうかもしれないな」
「えぇ〜私を遠慮してぇ波野さん抱くとか意味わかりませぇん」
「あはは。なんか悩んでたから言ってみただけだよ。俺は同じ部署の子に手は出さない主義だから」
「あの、魅力ってどうしたらつきますか?」
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