それは手から始まる恋でした
「あいつから貰ったものは全て捨てろ」
「どうしたの、仁」
「食器なんて買いなおせばいい。同じサイズの皿なら沢山あるだろう」
「そんなの勿体ないよ」
「金はある。あんな男からもらったものを紬が持ってることが気に障る」
「仁、落ち着いて。ここには穂乃果さんがくれたものもあるよね。私はそれを嫌だって思ってないよ。最初は穂乃果さんがあれこれ教えてくれた時、穂乃果さんのことを知らなかったから嫌だったけど、仁と穂乃果さんのことを知って嫉妬がないって言うのは嘘だけど、でも二人は幼馴染だからお互いがプレゼントしたもので溢れるのは仕方ないのかなって思った。あのティーポットは穂乃果さんの趣味で、あのカップも穂乃果さんがプレゼントしたものなんでしょ? 仁はあれを使うとき穂乃果さんのことを思いながら使ってるの? 会いたい、好きだって思いながら」
「そんなこと思っているわけないだろ。ただあるから使っているだけで……」
「私も一緒だよ。港に貰ったものに仁から貰ったもののような特別な思い入れもない。だからそのままじゃダメかな? それでも仁が嫌だって言うなら捨てる」
「……紬はあいつのこと好きなのか?」
「人として友達としては好きだよ。でも私が男の人として好きなのは仁だけだよ」

 仁はソファーに座り私を呼び寄せ座らせると後ろから抱きしめた。多分1時間くらいそのままだったと思う。手を握り合い何も言わずにぎゅっとただ抱きしめていた。

「貰ったケーキ食べる?」
「食べる」

 高良は甘えた声で私の耳元でそうつぶやいた。
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