それは手から始まる恋でした
   ***

「複雑な顔してんな」
「難しい……恋愛ってこんなに難しいのか? 好きとか体の相性だけじゃないのか?」
「それは仁がそういう恋愛しかしてなかったからだろ。仁にそんなこと考えさせるなんてホッカイロちゃんって何者だ?」

 永井港と会った。絶対に勝てると思った。でも違った。

 一見、なよっとしてて喋り方も女みたいだったのに迫力があった。しかもあいつは紬が好きだ。彼女は気づいていないが戸崎先輩なんて心配している暇がないほど危ない相手だ。

 そして自分の肝の小ささを痛感させられた。これまでこんなことはなかった。学校でも、会社でも何をするにも度胸があって怖いもの知らず、肝が据わっているとよく言われた。それなのに紬のことになると何故か別人のようになってしまう。

 紬の説教も応えた。いつもは年上とは全く思えない彼女だが、ふとした時に大人だと思う事がある。
 幼馴染の穂乃果からもらったものなんてそりゃ沢山ある。でも捨てていない。一方的に俺は紬を言いくるめようとした。バカだ。

「そんなに落ち込むな。何があったか知らないがホッカイロちゃんなんてこの世に沢山いるって。そんなに面倒なら捨てちまえ」
「俺初めてお前に怒り覚えた」
「なんでだよ」
「陵は真剣に付き合ったことないだろう?」
「毎回真剣だよ。その時は彼女しかいないって思うけど別にいい女がいたらそんなことすぐに忘れてそっちに行く。そんなもんだよ、恋愛なんて」
「そうなのか?」
「穂乃果しかいないって思ったお前にホッカイロちゃんが現れたように、ホッカイロちゃんしかいないって思っていても次の子が現れるんだよ」
「あ~もうますます分からなくなってきた」
「ホッカイロちゃんばっか見ずに他の女もみろ。この前めっちゃ美人がお前に抱き着いてたじゃん」
「あいつのせいで別れる危機だったんだぞ。マジ勘弁」
「お前一回ホッカイロちゃんから離れた方がいいんじゃね?」
「なんでだよ。やっとこれからって時に」
「どうせホッカイロちゃんとは結婚できねぇんだよ。俺お前が壊れてく姿なんて見たくないからな」
「なんで俺が壊れるんだよ。それに結婚したきゃする」
「何言っても無駄か。あっそう言えば穂乃果も修羅場らしいぞ」
「は? なんでだよ。寛大な旦那って自慢してただろ。クリスマスイブだってわざわざ実家に自慢しに来てたし」
「寛大な理由は女がいたからなんだよ。穂乃果が仁に連絡しても出てくれないし家には来るなって言われて俺のところに愚痴りに来た」
「それで穂乃果どうすんだよ」
「まっお前がヒーローになるか穂乃果が自分で解決するだろうよ。一応俺から男の立場の意見は伝えといた」

 陵の意見ということは浮気する男は一生浮気するとかそんなもんだろう。それにしてもどうやって浮気を知ったのだろうか。穂乃果は大丈夫だろうか。穂乃果のことが気になる。
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