それは手から始まる恋でした
「まだ仁のこと好きなんですか?」
「好きよ。だからここにいるの。仁が私と結婚してくれるなら私は彼と別れるわ。紬さん、あなたは仁と結婚できないわ。だから早く分かれて。私なら仁と結婚できるから」

 やっぱりだ。

 何となく嫌な予感はしていた。穂乃果さんの仁に対する態度は幼馴染とか妹とかとは違っていた。

「でも、それは仁が決めることです。穂乃果さんが仁に気持ちを伝えて仁が決めたことなら私は諦めます」
「何を言ってるの? 私から仁に気持ちを伝えるなんてできないわ。仁は本当の気持ちを隠しているだけなの。私が仁と結婚するの。それにあなたが仁と結婚しようなんてあさましい」
「旦那さんは部下の人と別れようとしたんじゃないですか? 穂乃果さんが大事だから」
「違うわ。あの女は彼に離婚するように言ったの。だから彼は邪魔になった女を捨てた。他にも都合のいい女が何人もいるから。何が寛大よ。何が男の人の家に行っても君のこと信じてるから大丈夫よ。自分が後ろめたいことしているからでしょ」
「私そういう穂乃果さんの方が好きです。思いっきり吐いてください。仁もいないから汚い言葉使ってもいいです。繕わず思うまま感情を吐き出してください」

 穂乃果さんはそれはそれは乱暴な言葉で旦那さんを罵った。大きな目からは大量の涙が流れていた。いつも高嶺の花だった彼女は男に馬鹿にされたことが勘に触ったようだ。高良が帰って来た頃には穂乃果さんは私の膝の上で泣き疲れて眠っていた。

「何が起きた?」

 高良は私の膝の上で穂乃果さんが眠っていることに驚いたらしい。穂乃果さんが女子に気を許しているところを見たことがないそうだ。私はただ笑っていた。私は高良を先に寝かせ彼女が起きるまでずっと待っていた。夜中にやっと起きてお腹が空いたとご飯を食べていた。夜中でも気にしないらしい。

「仁を取り返します」

 満腹になった穂乃果さんからそう宣言された。私は眠れる獅子を起こしてしまったようだ。
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