鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
それは私が一番欲しい言葉ではなかったけれど、いままでとは全然違った。
そんなのは可哀想じゃない、言外にそう言ってくれたのが、嬉しかった。

「袴田課長って、いい人だな」

ずっと両親はこの傷のせいで、私に申し訳なさそうだった。
私がまだ幼い頃、実家に帰ってちょっと目を離した隙に、灯油ストーブの天板に私が額をつけていた。
なにがどうしてそうなったのかなんてわからない。
両親と祖父母が気づいたのは火がつくように私が泣きだしたからだし、私も覚えていないから。

結果、私の額には大きな火傷の跡が残った。

けれど私は全く気にしていなかったのだ。
でも両親も、祖父母も、周りの人間もみんな、私の傷痕を見ては気の毒そうな顔をした。
そして言うのだ。

『女の子の顔に傷が残って、可哀想』

……と。

その言葉は鎖になって私を雁字搦めにした。
家では常に息ができなくて、心療内科のお世話になったこともある。
ひとり暮らしをはじめ、両親から自由になってからは楽になったけど。

そういう理由なので、可哀想じゃない化粧でどうとでもなる、なんて言ってくれたのが酷く嬉しかったのだ。

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