鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「あの人の下なら、働いてみたい」

でもきっと、私がルーナ化粧品に採用されるなんて夢みたいなもんだよ、とか思っていたけれど。
翌日には超ハイテンションで袴田課長からいますぐ来て、なんて電話がかかってきた。
それから彼の下で働いているわけだけど、そういうわけなので私が彼を好きになるのは自然な流れで。

――でも。

『わるい。
チョーコは可愛いと思うし、好きだけど、そういう対象には見られない』

初めて迎えたバレンタイン。
私にしては勇気を出して告白したけれど、返ってきた答えはこれだった。
そして袴田課長は三ヶ月前、どこぞで出会った彼女と電撃結婚したわけだが、前と変わらず私を可愛がり続けている。



朝には熱は下がっていた。
袴田課長が薬なんか差し入れてくれたおかげだろう。

……いや、そもそも熱が出た原因は彼な気がしないでもないが。

「おはよう、ございます」

「おはよう、チョーコ。
熱、下がったんだな」

いつもの車両でいつものように私の前へ袴田課長が立つ。
見上げた、視線の先の広告では、今日も神月伶桜がこちらを見ている。

なんの変わりもなく、その日も過ぎていくはずだった。

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