鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「うん。
だから今日は、これで失礼するよ。
じゃあね、苺チョコちゃん」

彼がその高い背を器用に折り曲げ、顔を近づけてくるのを間抜けにもぽけっと見ていた。
私の唇に自分の唇を触れさせて、離れる。
途端にどこか、別の世界でキャーッと悲鳴が聞こえた。

「また来るからねー」

ぶんぶんと手を振りながら去っていく彼を呆然と見送る。

「……石野、さん?」

「……え?」

国元さんの声でようやく、目の前で振られる彼女の手に気づいた。

「ちなみに訊くけど、もしかして……神月伶桜と付き合ってる?」

いやそんなはずはない、でもあれって……と、国元さんはかなり困惑した顔をしていた。

「ま、まさか!
前に派手に転んだときに助けてくれたのが神月さんだった、ってだけで、ほかになんの接点もないんですよ?
なのに、なのに……」

……キ、キスなんてー!

怒りでわなわなと身体が震える。
しかもこんなところでするから、視線が痛すぎた。
さっきから羨望と憎しみの混ざった視線が、ぐさぐさ突き刺さっている。

「あー、うん。
ごめん。
いくら神月伶桜でも、好きでもない人にキスされるのは嫌だよね」

慰めるように国元さんはぽんぽん、と肩を軽く叩いた。

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