鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
それにあの人は、自分よりも私を大事にしてくれる人が現れたら、その人に任せると、そのときは身を引くと言っていた。

いままでこんな疑問、持ったこともなかった。
私の中で、袴田課長だけが縋る相手だったから。
でも今日、神月さんが私の心を満たしてくれた。
だから、気づけたのかもしれない、袴田課長の身勝手さに。

「あっ、……くっ」

いつものように彼が私の中で果てる。
それと同時に涙が一筋、目尻から流れ落ちていった。

「もう、寝る」

自分だけ後始末し、さっさと彼はベッドへ行った。
私の中から流れ落ちたそれが、ソファーを汚している。

「……汚い」

このソファーも、……私の身体も。

ティッシュで拭くだけして、ソファーを下りる。
そのまま床を這って眼鏡を探した。

「よかった、壊れてない」

そっと、苺チョコ色の眼鏡を胸に抱き抱える。
買ったときはこんな私に似合わない眼鏡、と思った。
でも袴田課長がいいと言うからかけ続けた。

――でも、いまは。

神月さんが私に選んでくれた眼鏡だから、大事にしたい。

シャワーを浴びて寝室へ向かいかけ、流しの花束が目に入った。

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