神隠

標本

-標本1-

あの日から…
私達は司とよく話すようになった。
校舎の主がどうして佳奈を拐ったのか、
とか解らない事はあるのだけど… 
そもそも…校舎の主って何?

それでも他愛もない話をするようになった。
だが、司は自分の事はあまり話したがらない。
いつも、うんとか、ああとか言ってはぐらかす。

司には不思議な力がある。
それはあの日に見た不思議な光…
あれはなんなのだろう?

有希の視線は窓際で話す男の子達に注がれている、
5人ぐらいのグループの中に司がいるのだ。

午後の教室の、
あとは帰るだけの時間。
だけど、こんな狭い村に娯楽なんてない。

だから、みんな学校に残って駄弁ってる…
そんな中に加わり切れなくて、
有希はポツリと一人、帰宅した。


本を読んでも、ゲームをしてても…
有希たちに村は静かすぎたのだ。
もうすぐ、夏休みが来る。
同級生達は東京へ行ったりするのだろうか?
逆に東京からいとこ達が来たりする家もある。

だが…有希には都会のいとこ達はいなかった。

部屋を見回してもなんにもない。
吊るした制服。
勉強机。
いま寝転がっているベッド。
着飾るわけでもないから、
服だって大して持ってない…

唯一部屋の中で異彩を放つのはパソコンだ。

将来困るといけないから、
と両親が用意してくれたのだ。

最初は面白かった。
動画サイトで流行りの歌手の歌を聴けたり、
ライブの中継があったりして、
地方にいても都会のような情報量に目が眩む。

だが、情報だけなのだ。

美味しそうなお菓子も、
きれいな服も売ってはいない。
もちろん通販で大抵は手に入る。

だが、手に入るだけなのだ。

友達と食べ歩いたり、
見て回ったりは出来ない。

動画サイトに登録して、映画をみる。

映画は見れるかもしれないが、
大きな劇場を体験することは出来ない。

自分は都会に行きたいのだろうか…

色気もない寝間着でベッドに伸びて、
とくだんにやることもない。
こんな時、司達はどうしているのだろう?

スマホを弄り回して、
天井と画面を交互に見ていると…
佳奈からラインが入った。
佳奈も持て余しているのだろうか?

「ねぇ、旧校舎の理科室に人魂が出るって…」

いったい佳奈は何を考えているのだろう。
佳奈は自分が黒板から引き摺りだされた事は
もちろん知らない。
司にも口留めされている。
3日間、大人の目に止まらず、
旧校舎を彷徨っていたことになっている。

とんでもない話だが、
司は先生に黒板の前で倒れていたと話した。

黒板から引き摺り出したことを話さないなら、
その部分を端折るとそうなる…
司は何を問い詰められても、
涼しい顔で同じ返答を繰り返した。

何故あそこにいたのかと問われれば、
佳奈に呼ばれたと言いのけるのだ。

不可解すぎて、大人たちが折れる事になった。
佳奈が無事保護されて、
身体にも異常がないのも一役かったのだろう。

スマホの画面を見ながら返信を考える。
既読をつけてしまったので何か返信はしたい。

少し考えてから、有希は短く返信した。

「もう、怖いのやめようよ」

だが、その返信は佳奈を煽ってしまったようだ。
そのあと散々に旧校舎に行こうというラインを
送りつけられた。

しかも、今度は司を連れて行こうと言う。
絶対にいい顔するわけない。
…気楽だなぁ、佳奈。

佳奈からの返信がお休みで途絶えると、
有希も眠る気になった。
明日はどうなるのだろう…
いつもと同じ毎日のはずだが。

軽く身支度をして有希も布団に入った。
だが、理科室の人魂が気になって眠れない。
なんで今頃こんな話が出るのだろう?

理科室なんてずっとあるのに…
司はどんな顔をするだろう?
人魂…
迷いながらも有希は眠りに引き込まれていった。
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