神隠
-神隠2-

旧校舎の探検は事件になってしまった。
よりによって、佳奈が戻らなかった…
探検に参加した子達は呼び出されて、
職員室で先生に囲まれている。
保護者や街から警察も来ていた。

自分達に話はないが、
佳奈の行方不明は深刻な話に
なっているようだ。

仲が良いということで、
その日の夜、有希も聴き取りに
参加させられた。

佳奈がいなくなって今日で3日目だ。
学校は自習ばかりで自宅学習と言われ、
午前中で終わったのだ。

先生たちや、消防、警察による
近所の山も含めた大捜索が
計画されている、と母が言っていた。

夕飯を食べて、お風呂が終わると
別にやることもない。

有希は自分の部屋で呆然としていた。
なんでこんな事になったんだろ?
佳奈は何処に行ってしまったのか?

その時、窓がコツんと鳴った。

有希が窓を開けると、
表の暗がりに司が立って、
手を振っている。

え、なんで?
男の子が夜自分を訪ねてくるなんて、
そんな事思いもよらない。

有希は静かに階段を降りると、
コッソリと玄関を出た。

司は特に照れる訳でもなく、
暗がりで平然と手招きしている。

「遅くにごめんね」

「どうしたの?」

有希は疑問をストレートに聞いた。
返事は想像してないものだったが。

「助けに行こうと思ってさ、彼女」

「知ってることあったら教えて」

有希は少しがっかりしたが、
佳奈も大事と思い直した。
とは言え、大したことも知らない。

佳奈を含めた数人が
旧校舎を探検に行ったこと。
その原因は3年の先輩が
旧校舎で何かを見たこと。
何を見たのかは誰も知らないこと。

それらを有希は説明した。

「…そうなんだ」

それは司も見ていただろう。

「ありがとう、ちょっと行って来るよ」

司はそう言って、
学校の方に歩き出した。

「まって、行ってもいい?」

なんでそんな言葉が出たのか、
有希には解らない。
司は突然の申し出に考えて込んでいる。

「あぶないよ?」

司は一言、絞り出した。

「でも、行きたいの」

有希が強く言うと、
司は折れてくれた。

「学校に着いたら、離れないでね」

行こうという感じで、
司が有希を手招きした。

夜の通学路を、
男の子と二人で学校に向かう。
ちょっとない経験に
有希は心が逸ったが…
司は少し難しい顔をしていた。

村夜なんて遊ぶところもない。
みんな家の中だ。
娯楽の少ない生活、
テレビとゲームと読書?

でも、夜外に出て遊べる場所なんてない。

二人は大人たちとすれ違わない様、
注意深く進んで行った。
こんな時間に中学生二人なんて、
めちゃくちゃ目立つ。

校門に着くと、門は開いていた。
人一人通るくらいだ。
二人は暗がりに寄った。

「中に入ったら喋らない」

「携帯切ってね」

「俺から離れない、いいね?」

司は有希に顔を近づけると、
かなり真剣な表情でそう言った。

そして…ちょっと困った顔になって、

「中で見たことは二人の秘密にして」

あまりの顔の近さにドキドキしながら、
有希はコクコク頷く。

「ありがとう…じゃ、行こう」

周囲を確認して、
二人は学校に駆け込む。
一気旧校舎まで駆け抜けた。

案の定、旧校舎の入口は施錠されている。

「急ぐからね?」

司が鍵穴に右手を押し付けると、
鍵が開く音がした。

え? 鍵開けた?

驚く有希を司は校舎内に押し込んだ
そして自分も滑り込んでくる。

カチリとシリンダーが回る音がして、
司が後手に施錠したのが判った。

ガラスから見切れる高さまで、
頭を下げるジェスチャーで
古い下駄箱が並ぶエントラスを進む。

「上か…」

司は呟いて、有希に左手を差し出した。

手を繋ごうという意味だ。
ゆっくりと握った司の手は、
思ったよりも冷たかった。

非常口へ誘導する誘導灯の
緑と白の灯り。
廊下の真ん中で光る、
火災報知器の赤い光。

夜の学校は不気味だ。

二人は階段を上がって、
二階へ出た。

だが、二階の景色は有希が知る
旧校舎のそれでは無かった。

もっと、もっと古い…
もしかしたら創建当時の様な古さ。

「校舎全部がそうか…」

司は有希を自分の後に隠すと、
右手を伸ばした。

「見るなよ」

司の伸ばした右手が凄まじく光る。
もっと早く教えてくれなければ…
みるなと言われても無理だ。

有希はそのまま司にしがみついた。
光が収まると、
廊下は元の景色に戻っている。

「もう、いいよ。見つけた」

司はそう言って手を離した。

廊下の先に光を浴びても景色の
変わらない部屋がある。
司はそこへスタスタと歩いていった。

そして、1つだけ古いその教室に
踏み込んでいった。
たまらず有希は追いかける。

有希が追いつくと、
司は古い黒板と相対していた。

「校舎の主とかそう言うと解りやすい」

そう言うと司は黒板に右腕を無造作に
突っ込んだ…

右腕はズブズブと黒板に沈んでいく。

「付喪神みたいなもんだね」

司は中を掻き回しているような
仕草をみせた。

「見つけた、返して貰うぞ」

司は今度は黒板から腕を引き抜く、
その腕は佳奈の腕を掴んでいた。
驚きもせず、司は佳奈を受け止めると
床に横たえた。

「約束守れる? 見たことはナイショ」

有希は頷いた、まだ驚きで声が出ない。

「じゃ…先生たち、呼んできて」

夜会ってから、
司はようやく明るい顔になる。
有希はその声に押されて駆け出した。
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