禁断の味はチョコレートのように


杏は利奈が心の底でそんなことを思っているとはつゆ知らず、話された内容に感嘆していた。
なるほど、レベルの高い人達の人脈作りの場で信頼できる人間を広げるには賢い方法なのかも知れない。
だがそんな場に自分が相応しいのか疑問だった。

利奈は既婚だがスタイルも良く、仕事も出来て杏達の憧れだ。
それに対して自分は地味で、営業職の利奈と違い地味な総務部。
連れて行けば利奈の足を引っ張るのでは無いだろうかと心配になる。

「利奈さん、嬉しい申し出ですけど、そういう内容を聞けば私では利奈さんに恥を掻かせてしまいます。だから」

「もう、何度も言うけど杏は自分を卑下しすぎよ。
以前付き合っていた男は別れて当然。
杏の良さを理解せずに利用したあげく、派手な女に行ったヤツなんて」

杏は思わず俯く。
もうそろそろ付き合って二年、年齢的にも結婚も当然なのだと思っていたそんな矢先、自分が相手から二股をかけられていたことを知った。
彼の相手は既婚者の女性で、向こうが夫と別れるまで杏はていのいい隠れ蓑扱いされていた。
向こうから別れを告げられたとき杏はあまりの衝撃に何が何だかわからず、そして真面目な男性だと思っていた彼のイメージが根底から崩れたのだ。

最低だ、不倫していたなんて。

あれから半年、男性不信に陥っている杏としては、男性と話す今回の誘いはそういう点でも断りたい。

そんな杏の気持ちを見透かすように、

「だからこそ新しい人脈、外の世界は必要よ。
違う仕事をバリバリしている人に会う、本当に刺激的だから。
まずは動いてみることも必要じゃ無いかしら。
私は杏しか誘ってない。
杏が頷かなければ行かないわ、招待は残念だけど断るしか」

見るからに肩を落とす利奈を見て杏は焦ってしまう。
利奈には入社の時から公私にわたり面倒を見てもらった。
上を見ている彼女のチャンスを自分が潰すなんて事をして良いわけが無い。

「わかりました。私でよろしければ」

杏が笑ってそう言うと、利奈は満遍の笑みでありがとうと答えた。


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