指輪を外したら、さようなら。
「しんっじらんない!」
酒が抜けた千尋は、予想通り激怒した。
真っ裸で首元に手を当てて、仁王立ち。
「どうすんのよ、これ!」
「明日には消えんだろ」と、俺は何の根拠もなく言った。
「つーか、ハイネックの服なら見えないだろ」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
彼女の鎖骨から膝まで、無数の花が咲いている。小さくて真っ赤な花。いつもは嫌がって付けさせてくれないが、昨夜は酔っているのをいいことに、吸い疲れるほど吸い付いてやった。
やり過ぎた自覚はあるが、昨夜は嫉妬やら興奮やらで歯止めがきかなかった。
酔った千尋は、とにかく素直で可愛かった。
俺を愛していると泣き、もっと愛されたいと啼いた。
『千尋、酔うとすげーイイですよね』
あの男の言葉通りだったのはムカつくが、確かに良かった。
「お前、昨日いた男とも寝てたのか?」
その答えを千尋の口から聞かされるのは嫌だが、確認しておけば今後の飲み会に行くなと言える。もしくは、帰りは必ず迎えに行く。
とにかく、焼け木杭になんとやら、という事態は避けられる。
ところが、千尋は顔をものすごく不細工に歪めた。
「はぁ?」
「あの中に大学時代の男、いたか?」
「いないわよ」
「……マジで?」
「仲間と面倒な関係になんかなりたくないもの」
「……」
嘘を言っているようにも、誤魔化しているようにも見えない。
「あの、好青年っぽい男」
「好青年?」
千尋の感度を知っているあの男を『好青年』と表現することには抵抗があったが、三人いた男をわかりやすく表すには他に思い浮かばなかった。
「陽気で軽そうな男と、インテリっぽい男と、ムカつくけど爽やかな好青年って感じの男がいたろ?」
「……っく! くくくっ――。……っくしゅん!」
少し考えて、笑い出して、くしゃみをした。
忙しい奴だ。
「そんな恰好で突っ立てるからだろ」
俺もまた真っ裸でベッドを出ると、軽く身震いして、千尋を抱き寄せた。そのままベッドに潜り込む。
「で? あいつらとは寝たのか?」
「――寝てない」
身体を丸めてすり寄る彼女の肩を抱き締める。
シャワーを浴びるとベッドを出て、キスマークに気づき、戻って来て、今に至る。
暖房を下げたままにしているから、裸でいるには寒い。
「っていうか、どうしてそんな話になってんのよ」
「それは――」
俺は、千尋を迎えに行ったところから話した。彼女を腕に抱き、足を絡め、ぴったりと身体を寄せ合って。
話し終えると、千尋が特大のため息をついた。
息がかかってくすぐったい。
「そういうこと……」
「何が?」
「……比呂の指輪。見られたんでしょ?」
「ああ」
「龍也に試されたんでしょ」
「龍也?」
「好青年。龍也っていって、あきらの相手。陽気なのは大和で、インテリなのは陸。昨日は陸のペースに付き合って潰されちゃったのよ。ちなみに、大和は陽気だけど軽くないよ。同じサークルのさなえと結婚して、一児のパパ。もうすぐ二児になるけど。昨日はさなえが二人目を妊娠したことと、陸が離婚したって報告を受けて、とにかく飲みまくっちゃったのよ」
「で、なんで龍也が俺を試すんだよ?」
「さあ? 私が比呂に弄ばれてないか、じゃない?」
俺は千尋の肩を掴んで身体を引き離すと、彼女の顔を覗き込んだ。
「なんで俺が弄ぶんだよ!? 弄ばれてんのは俺だぞ?」
「普通はそう見えるでしょ」
「うわー。納得いかねぇ」
「ま、あきらが適当に言ってくれてるでしょ」
「適当じゃ困るんだけど?」
そう言うと、俺は布団に潜って彼女に口づけた。
「ちょっと! シャワー浴びてくるから――」
「もうひと汗かいてからでもいいだろ」
「嫌よ! なんか、やけにベタついてるから――」
千尋の抗議の声をキスで遮り、ゆっくりと押し挿った。
タオルで綺麗に拭いたつもりだったが、その感触は残っていたらしい。
つけずにやったこと、覚えてないんだな……。
その証拠に、軽く腰を揺らすと、ゴムを着けろと叱られた。