指輪を外したら、さようなら。

 煙草を人差し指と中指で挟み、口から離して煙を吐く。テーブルの上の真っ黒で重そうな灰皿に灰を落とした。

 大理石か黒曜石かはわからないけれど、高価な石であることは確か。

 ドラマなんかで凶器に使われるが、私の力でも思いっきり振りかざせるだろうか、なんて考えてしまう。



 どうしても……の時は、それもアリかな。



 だが、あくまでも、どうしても、の時だ。

「高校の頃から成長しないわね」

 旦のニヤけた表情がフリーズし、ゆっくりと口角が下がる。

「体育倉庫がタワマン最上階になったのは、立派な成長だろ」

「父親のスネかじっただけじゃない。あの時も、父親の力で逃げ遂せたくせに」

「フンッ。どうせ親父にバレるなら、きっちり突っ込んどけば良かったぜ」

 悪態をつきながら乱暴に煙草の先を灰皿に押し付け、すぐに次の煙草に手を伸ばす。

 今度は、自分で火をつけた。

「聞きたかったんだけど――」

 亘がギロッと眼球を動かし、私を見上げた。

「私の母親があんたの父親の愛人だったなら、私の父親があんたの父親だとは考えなかったの?」

「はっ!?」

「余程のバカね」

「――――っ!!」

 亘はカッとなってテーブルを蹴飛ばした。が、これまた高価で重厚そうなテーブルはびくともせず、亘は自分の足を痛めただけのようだ。

「そんなわけあるかっ! 俺がいながら愛人を妊娠させるようなヘマ、親父がするわけねーだろ!」

「ホント、救いようのないバカね。私とあんたじゃ、私の方が三か月早く生まれてんのよ」

「なっ――!」

「腰を振りながら『お姉ちゃん』って啼いてみる?」

「黙れっ!!」

 亘が煙草を私目掛けて投げつけた。

 フワッと浮いて、ポトッと落ちたのは、亘の目の前。

「まだ、私にしゃぶられたい?」

「うるせー! そんなわけあるか! 俺とお前が姉弟だなんて、あるはずがない!」

「あんたは父親のようなヘマをしないように、気をつけたらいいわ。そうじゃないと、そうとは知らずに、弟が姉を犯しちゃったら大変だもの」

「あんなん、()ったうちに入るか!」

 どの口が言うのか。

 たとえまともに私の中に入っていなくても、押し付けられた感触と恐怖は、なかったことには出来ない。

「そうね。高三の夏に、埃にまみれた体育倉庫で、泣き叫んで抵抗する私の口にネクタイ押し込んで、笑って足を開かせたなんて、犯ったうちに入らないわよね? その様子を、弱みを握っているクラスメイトに録画させるなんて、子供の遊びよね?」

「結局は途中でやめたんだから――」

「やめたんじゃない。やめさせられたんじゃない! あの時、八倉くんが止めてくれなかったら、あんた、あのまま最後まで続けてたわよね?! ナマで突っ込んで、ナカ出ししようとしてた!!」

 痛みも感じないほど、挿入とは言えないほど、強く押し当てられただけだったが、私を絶望させるには十分な感触だった。

 あの瞬間、私は汚れ、セックスが愛のある行為だなんて思えなくなった。
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