CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた

玲さんからは仕事の関係で遅くなると連絡が入って、正直な気持ちほっとした。

あんな……妹と夫の獣のような行為を見せつけられた以上、彼からの身体の要求に素直に応じる気にはなれない。

ルームサービスで夜食を頼んだけれども、好きな蟹雑炊なのに半分も食べられなかった。

最上階のペントハウススイートルームは御影石と大理石でできており、漆塗り等の国宝級の調度品が使われ寝室の他にキッチンなど長期滞在できるひと通りの施設や設備が整っている。

玲さんは今夜だけ泊まるみたいだけど、私は好きなだけ滞在していいと沢村のお父様がおっしゃってくださった。

(……少しお散歩でもしてみようかしら)

ここのところ忙しすぎて、唯一の楽しみだった散歩にもいけてない。3月も終わりで桜は咲き始めてる…。確か日本庭園に桜の木があったはず、と思い出して、それを観に行くことにした。

恥ずかしい格好はできないから、買ったばかりのワンピースドレスに身を包む。結婚したのだから、派手な色はご法度でロイヤルブルーのシンプルなデザイン。髪の毛も乱れないようしっかり結い上げて…。

シルク生地のカーディガンを羽織り、ホールに出た瞬間ギクッとした。どこからか、音もなく黒いスーツを着た男性が現れたのだから。

「沢村夫人、どちらへいらっしゃるのですか?」

詰問にムッとしたけれども、そういえば沢村のお父様が、私にも護衛を付けるとおっしゃったことを思い出した。

< 12 / 51 >

この作品をシェア

pagetop