CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた


(……夢)

目が覚めて、ぼんやりした頭で思い出した。

ずいぶん昔の、古びた記憶。

(どうして…忘れていたんだろうな…あの男の子のことを)

私が罰を受けた時に、たまに人知れず助けてくれた男の子。
5つになる前にはもう来なくなって、それから忘れていた。

ほう、とため息を着く。

ゆっくり上半身を起こして、ベッドにひとりだと認識した途端に寂しさと侘びしさが襲ってきた。

結婚式から1ヶ月経つ。

沢村家に居を構えた私達夫婦だけど、玲さんはめったに帰宅しない。
たぶん美香のところだとわかるくらい、彼は美香の好きなパフュームの香りを纏わせ帰ってくる。

表向きは、確かに仲睦まじい夫婦を演じてくれている。

けれど……。

夫婦らしい会話は何もない。
家事は専用のハウスメイドさんがこなしてくださるし、社交界に出かける時は一人でいいよ、と一見優しい笑顔でおっしゃる。体調が優れないことにするから休みなさい、と。

…本当に、私は必要とされていないんだな……と、虚しくなる。

せめて子どもでも、と思うけど。玲さんは他所で遊んでいて、私には指一本触れない。
何のために結婚したのか……と毎晩泣いた。

そんな中、蓮さんが玲さんのふりをして訪れる時だけが、生きてる……と実感できた。

いけないことだ、とわかってる。いくら子どものためでも、これは不倫。妹も夫も裏切っているのに。

蓮さんは、まるで麻薬のよう。

私を全て溶かしそうなほど、情熱的に愛してくれる。

まるで本当に愛されている、と勘違いしそうになるほどに。

絶対、ありえないのに。

私は…誰にも愛されてないのだから。

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