CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
それまで、必死に自分自身に言い聞かせてきた。
男友達や男兄弟が居ないから、私には大げさに感じるだけ。美香と玲さんの距離が近いのは気のせいだ、と。
(そうよ…美香にだってたくさんの異性のお友達がいるんだもの…きっと…あれくらい、大した事じゃないわ。それに、いくら美香だって姉の夫になる人にまでは…美香だって今日蓮さんと結婚するのだもの)
今日、3月30日は私と玲さん、そして美香と蓮さんの合同結婚式だ。
多忙を極める大臣である沢村のお父様と、政財界の重鎮が多数出席されるのだから、スケジュールの関係でこうなった。
「薫」
「はい、お父様」
教会の花嫁の控え室ですでにウェディングドレスに着替えた私に、珍しくお父様が声をかけてくださった。
お父様から声をかけてくださるなんて、何年ぶりだろう。いつもご伝言だけだったのに…。
(お父様…心配してくださるの?)
期待と緊張でドキドキしていると、礼装のモーニングコート姿のお父様はジロッと私を睨みつけるように見る。
ビクッ、と思わず身体が強張った。
「いいか、何事も沢村家に従え。決して逆らうな。おまえの居場所はもはや家(佐伯家)にはない。何があろうとも、生意気に離婚など考えるな!そして、夫を家をもり立てて跡継ぎの男の子を必ず産むんだ!わかったな!!」
「……はい、お父様……」
(やっぱり……お父様は、私の事なんて…)
わずかでも期待した自分が馬鹿だった。
お父様にとって、私はただ政略結婚の駒に過ぎないのに…。
「……ごめんなさい、空気を吸いたいのでちょっと席を外しますね」
付き添いの方に断りを入れ、小さなドアから中庭へ出た。