砂浜に描いたうたかたの夢
肩を叩かれて我に返ると、祖母が隣にいるのに気づいた。



「危ないから、一旦避難しましょう」

「う、うん……」



手にはビニール袋と小さなちりとりセット。
私が呆然としている間に片づけたらしい。

ふと前を見たら、伯母も曾祖母に寄り添っていた。


刺激しないように、目を合わせないように。

祖母に背中を擦られながら、ゆっくりと立ち上がる。



「おいどこへ行く! 話はまだ終わってねーぞ!」



しかし、相当頭にきていたようで、そう簡単にはいかなかった。

制止する声に足を止めた時、既におぼんには父の手が伸びていて──。


──ガシャン!


綺麗になったテーブルの上に、おぼんと2つの器がひっくり返って落ちた。

旗が醤油で浸されていくのを目にした途端、我慢していた感情が溢れて、視界が滲んでいく。

もう、ダメだ……っ。



「一花ちゃん!」

「一花っ!」



涙を浮かべたまま逃げるように居間を後にし、そのまま家を飛び出した。
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