砂浜に描いたうたかたの夢
『同じ絵は絶対描かない』という強いこだわりを持っていた凪くんは、絵日記の宿題が出されなくなっても毎日違う絵を描いていた。

もうネタ探しに付き合わなくていいんだ! と、家族は大喜び。


しかし……家族と入れ替わるように、今度は自分が悩みを抱えるようになった。

元から描くのが速かったため、中1の夏休みでネタ切れに陥ってしまったという。



「宿題も手につかなくなるくらい悩んでて。ちょうどお盆前に登校日があったから、授業が終わった後に相談しに行ったんだ。そしたら……」



『君は1度着た服は2度と着ないのか。1度食べたものは2度と食べないのか』
『1つの角度じゃなくて、色んな角度から見てみなさい』

蒸し暑い職員室前の廊下で、穏やかな声で言われたのだそう。



「先生は俺に足りないものを分かってた。それでも黙って見守ってくれてたのは、口を挟むと意欲がなくなると思ったんじゃないかなって。俺、頑固だったから」

「素敵な先生だね。それが、こだわりを卒業できたきっかけだったんだ」

「うん。助言をもらった後は、考え方がガラッと変わった。ちょうどその時、部活で自然の絵を描く宿題が出されてたんだけど、1から描き直したんだよ」
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