砂浜に描いたうたかたの夢
「あ……もしかして写真撮るところだった?」

「……うん。でも、また描けば大丈夫!」



笑ってみせたけど、どうやら枝までも流されてしまったらしく、足元には何も残っていなかった。

酷いよ。絵だけならまだしも、描くものまで持っていくなんて。海め、私が何をしたっていうんだぁ……。



「邪魔してごめんね。ちなみに、何描いてたの?」

「へ⁉ あぁ、えっ、と……」



悲しさと悔しさを含んだ眼差しで睨んでいると、凪くんが不意打ちで質問を投げかけてきた。声が裏返り、目が泳ぐ。

どうしよう。「相合傘だよ」なんて、遊び心でも本人の前で言えるわけがない。



「将来の……夢?」



気が動転した私の口から出てきたのは、壮大な答えだった。


私の馬鹿……! いくら焦ってたからって、ごまんとある物の中から将来の夢を選ぶ奴がいるかよ……!

そりゃあ、付き合えたら楽しいだろうなとは思うけど……夢のまた夢すぎる。

そもそも、シンプルに「傘だよ」で良かったじゃないかぁぁ。



「夢か。頑張ってね。応援してる」

「ありがとう!」



荒ぶる私の心を一瞬にして和らげる、優しくて柔らかい笑顔。

誤魔化すことができて胸を撫で下ろしたけれど……まだ本調子じゃないからか、少し辛そうに見えて。

瞳の奥も、心なしか切なげに揺れていたように思えた。
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