砂浜に描いたうたかたの夢
「一花ちゃん! 久しぶり!」

「お久しぶりですっ」



もしかしてと思ったその時、車のドアが開いて伯母が出てきた。


お父さんより2つ年上の香織おばさん。

従兄弟達の記憶はほとんどないのに、なぜ彼女の車と顔は覚えていたのか。

実は、伯母さんの旦那さんの実家が私達の地元にあって、帰省のついでに時々顔を見せに来ていたんだ。



「あー、これは後ろに入れたほうがいいかな。(さとる)、ちょっと手伝って」

「はーい」



すると、助手席から同い年くらいの男の子が下りてきた。

智……この名前も聞いたことがあるぞ。



『一花、これあげるよ』

『え? なあに? ……ぎゃあああ!』

『こら! 智!』



思い出した……!



「あんた……っ! 小学生の頃、私にセミ渡してきたでしょ!」



せっせと運ぶ彼に向かって大声で指を差した。


薄れていた嫌な記憶が鮮明に甦る。

そう、あれは小学校2年生の時。今日みたいに日射しが強い夕方。

突然白い箱を渡してきて、ワクワクしながら開けてみたら、でっかいセミが入っていた。
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