砂浜に描いたうたかたの夢
それだけでもビックリしたのに、顔めがけて飛んでくるという、恐怖のおまけつき。

『珍しい色のセミを見つけたから』って言われたんだけど……後で調べたら、羽化したばかりの状態のことで、全然新種じゃなかったんだよね。

セミについて詳しくなれたものの、この件をきっかけに、私は虫全般が苦手になってしまった。



「悪気はなかったんだろうけど、あの時すごく怖かったんだからね⁉」



当時泣いて言えなかった胸の内を吐き出した。


翌年、理科の授業が始まった時、教科書を見るのが怖くて怖くて。授業がある日は、給食がのどを通らなくなるほど憂鬱だった。

今勉強してる生物も、実は少しドキドキしながら授業を受けている。



「……そんなことあったっけ?」

「あったよ! 覚えてないの⁉」

「うーん……」



目を合わせたかと思えば、首を傾げて全く覚えていないそぶり。

典型的ないじめっ子タイプだ……!



「それよりさ、その前にまず挨拶じゃない? てか、わざわざ迎えに来て荷物も運んでやったのに、なんで俺怒られなきゃいけないの?」

「……そうですね」
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