初恋の人
午前七時四十分。
静かな部屋にインターホンの音が響いた瞬間、高岡結愛は胸を弾ませ、自分の背中よりも大きなピンクのランドセルを背負って、玄関へ駆けていった。
後ろからは、母・美智子のスリッパの足音が追いかけてくる。
スニーカーを履き終えた結愛がドアを開けると、スーツ姿の青年――隣に住む伊藤康史が、穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。
「おはようございます」と美智子に頭を下げると、結愛のほうへ視線を落とし、今度は柔らかな笑顔で言った。
「おはよう、結愛」
その優しい声に自然と頬が緩み、結愛は康史にぎゅうっと抱きつくと、いつもの安心する匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「康ちゃん、いつもごめんね」と美智子が言うと、「いえ、通り道なんで気にしないで下さい」と康史はにこやかな表情で返した。そして左手で結愛の手をしっかりと握り「行ってきます」と美智子に会釈すると、続いて結愛も「行ってきまーす!」と声を弾ませ、満面の笑みを向けた。
マンションのエントランスを抜けると、外の空気は朝のひんやりした匂いを運んでくる。
「結愛? 昨日の給食の人参、ちゃんと食べれたかい?」
康史の声には、どこか楽しげな悪戯の響きがあった。
「もうっ! 結愛もう一年生だよ。人参だってピーマンだって食べれるもん!」
結愛は膨れっ面で答えた。
「そうだよなあ。結愛もう一年生だもんな」
言いながら、康史は目を細めた。
静かな部屋にインターホンの音が響いた瞬間、高岡結愛は胸を弾ませ、自分の背中よりも大きなピンクのランドセルを背負って、玄関へ駆けていった。
後ろからは、母・美智子のスリッパの足音が追いかけてくる。
スニーカーを履き終えた結愛がドアを開けると、スーツ姿の青年――隣に住む伊藤康史が、穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。
「おはようございます」と美智子に頭を下げると、結愛のほうへ視線を落とし、今度は柔らかな笑顔で言った。
「おはよう、結愛」
その優しい声に自然と頬が緩み、結愛は康史にぎゅうっと抱きつくと、いつもの安心する匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「康ちゃん、いつもごめんね」と美智子が言うと、「いえ、通り道なんで気にしないで下さい」と康史はにこやかな表情で返した。そして左手で結愛の手をしっかりと握り「行ってきます」と美智子に会釈すると、続いて結愛も「行ってきまーす!」と声を弾ませ、満面の笑みを向けた。
マンションのエントランスを抜けると、外の空気は朝のひんやりした匂いを運んでくる。
「結愛? 昨日の給食の人参、ちゃんと食べれたかい?」
康史の声には、どこか楽しげな悪戯の響きがあった。
「もうっ! 結愛もう一年生だよ。人参だってピーマンだって食べれるもん!」
結愛は膨れっ面で答えた。
「そうだよなあ。結愛もう一年生だもんな」
言いながら、康史は目を細めた。
< 1 / 17 >