初恋の人
 しかし交際が三ヶ月を過ぎた頃、太一が本性を現し、デートの帰り道に口喧嘩になった。

「待ってよ!」

 結愛が太一を追いかけ腕を掴むと、太一はそれを勢いよく振り払った。

「面倒くせーな!」

「浮気なんて酷いよ! 太一君がそんな人だとは思わなかったよ!」

 溢れた涙が頬を伝う。

「待ってられなかったんだよ! お前がいつまでたっても拒むから!」

「ゆっくりでいいって言ってくれたじゃない。あれは嘘だったの?」

「うるせーな!」

 言うと同時に、太一は結愛の頬めがけて右手を振り払った。

「いつまでもガキみたいなこと言ってんじゃねーよ!」

 その時、突然パッシングされクラクションが鳴った。
 車はクラクションを鳴らし続けたまま、スピードを落とさず結愛と太一に接近し、すれすれのところで急ブレーキをかけて停車した。
 結愛は後ずさりして勢いよく尻餅をついた。
 車から降りてきた男は、太一に近付いたかと思うと、いきなり太一の胸ぐらを掴み、殴りかかった。

「いってぇなぁ! 何すんだよ!」

 太一が睨み付けた。

「今のは俺からだ」

 男はそう言うと、さらにもう一発殴った。

「――それは、結愛の親父さんからだ!」

 結愛はその横顔を見て息を呑んだ。

「――こ、康ちゃん!?」

 声を上げると、太一がこちらに視線を向けた。

「え? 康ちゃんって――お前もしかして、このおっさんのことがずっと好きだったわけ?」

「そうだよ! この気持ちは太一君には一生わからないよ!!」

 結愛は泣き叫んだ。

「結愛には二度と近付くな」

 康史は太一の胸ぐらをもう一度掴むと自分の方へ引き寄せ、威嚇するような低い声で言った後、勢いよく突き放した。
 太一は振り返りもせず、切れた口元を押さえながら黙って去った。
 康史は素早く助手席のドアを開け、「乗って」と促した。康史も乗り込み車を道路脇に停車させると、不安げに顔を覗き込んだ。

「痛かっただろ。可哀想に……」

 そう言って、結愛の左頬に優しく触れた。
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