初恋の人
 結愛は思春期を迎えても相変わらず康史にベッタリで、美智子も首を傾げる程だった。
 中学生になった結愛は、その日も仕事帰りの康史をつかまえて勉強を見てもらっていた。

「結愛、康ちゃん仕事で疲れてるんだから、もう終わりにしなさい」

 美智子はそう言ってから、「いつもごめんね」と康史に謝った。

「俺は構いませんよ」

 康史の言葉を耳にすると、「ほらーぁ」と結愛はにんまりと笑った。
 
「結愛は小さい時から『康ちゃん康ちゃん』って、俺より康史ばかりに懐いてたからな」

 言ってから、父・春樹は、ガハハハと豪快に笑った。

「康史、晩飯食べて行くんだろ? こっち座って一緒に飲もう。康史はうちの息子も同然だからなあ」

 春樹が嬉しそうに手招きした。

「いつもすみません」

 康史はお決まりの言葉を口にした。

「私から幸代さんに電話しとくわ。まあうちで食べても、帰って食べても、今日は同じメニューよ。だって幸代さんと一緒に買い物に行って決めたもん」

 今度は美智子がケラケラと笑った。
< 4 / 17 >

この作品をシェア

pagetop