熱く甘く溶かして

 俺は智絵里の親友が気になっていた。その子は小柄で可愛く、まるで小動物のようだった。ただ俺はその子にアピールしたくて、彼女が好きだった男に最低な発言をしてしまった。その俺を唯一叱ってくれたのが智絵里だった。

 あの頃から裏表なく接してくれたし、不貞腐れた俺で良いと言ってくれた。だから智絵里の前では素直になれたんだと思う。

「でさ、かなりの男嫌い。触られると拒否反応を示すらしい。だから受付業務を日比野ちゃんとわけてるんだって」
「……そうなんですか? 知らなかった……」
「あとね、めちゃくちゃお酒に弱い。しかもタチが悪いのが、体は酔うのに頭は酔えないんだと」
「……意味がわからないんですけど」
「つまり、たった一杯のお酒で体はフラフラ。でも意識はしっかりしているんだよ」

 得意そうに話してすぐ、松尾のスマホが鳴った。メッセージを確認するとニヤッと笑う。

「お前さ、畑山ちゃんとちゃんと話したいと思う?」
「それはまぁ……」
「じゃあさ、隣の個室のドアを開けてみな」
「はっ?」
「そのかわり、畑山ちゃんに何かしてみろ。俺と日比野ちゃんがお前を社会的に抹殺してやる」
「……笑顔で怖いこと言うの、やめてくれます?」

 恭介は障子を開けると、松尾が指差す方の個室の前に向かった。
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