熱く甘く溶かして
 恭介は戸惑いながら、とりあえず中の人へ声をかける。

「すみません」

 声をかけてから障子をゆっくりと開ける。その途端、驚いて口を押さえた。智絵里が座敷に倒れていたのだ。

「智絵里⁈」

 恭介は慌てて中に入ると、智絵里を抱き上げる。だが智絵里は恭介の腕の中で不満そうな顔をしていた。睨むように、向かいに座っていた日比野を見る。

「謀りましたね……日比野さん……!」
「ごめんね〜。松尾さんと企てちゃった〜!」
「だ、大丈夫なのか?」

 心配そうな恭介を見て、智絵里は不思議と力が抜けた。あーあ、なんでこういうところは変わってないのよ……懐かしくて泣きそうになる。

「お前さ、弱いんだったら酒なんか飲むなよ!」
「自分から飲むわけないでしょ! 日比野さんに謀られたの!」
「なんでそんなこと……」

 恭介が驚いたように日比野を見ると、彼女は智絵里に笑いかける。

「昼間も思ったんだけど、篠田くんには拒否反応が出てないのよね。しかも智絵里ちゃん、彼に負い目があるって言ってたし」
「負い目……?」

 恭介は智絵里の顔を見ようとしたが、彼女はぷいっと顔を逸らす。その様子を見ていた日比野は吹き出した。

「せっかくだから話したら? じゃないと、わだかまりが残ったまままた逃げ出すでしょ? ここで話す? それなら私が松尾さんのところに行くけど」
「智絵里?」
「……話すことなんかないし。一人で帰るからいい」

 智絵里が吐き捨てるように言うと、今まで心配そうにしていた恭介が、一転して無表情になる。

「……お前は……どれだけ人に心配をかけるんだ! 日比野さんだってお前を思って……」
「ソフトドリンクとお酒をすり替えることが優しさなわけ⁈  意味わかんないんですけど〜」
「ああ言えばこう言う……」
「あーあ、だからお母さんはお節介焼きでうざったいのよ! もう放っておいてよ!」

 そこで恭介の中の何かがプチンと切れた。そうだ、こいつはいつもこうやって反論してくる。でも……それが意外と楽しいんだ。
< 13 / 111 >

この作品をシェア

pagetop