熱く甘く溶かして
君の手の内
 智絵里が目を覚ますと、隣に恭介が眠っていた。眼鏡を外している顔は、高校生の時を思い出す。二人ともあれから昔話をしたまま眠りについてしまったのだ。

 それにしても、こんなに寝たのはいつ以来だろう。頭が不思議とスッキリしている。あの日以来、ずっと不眠に悩まされていた。目が覚めた時に、あの日のことを思い出すような気がして怖かった。

 恭介がいたから安心して眠れたのかな……。目が覚めて一人じゃないことが、こんなに安心出来るものだとは知らなかった。

 今まで男友達と呼べるような存在は恭介だけだった。私たちが仲が良かった間、恭介に彼女もいなくて、たぶん二人でいることが心地良かったんだと思う。

 親友の一花はずっと好きな人がいて、どちらかと言えば、私より彼の方が優先順位が高かった。まぁ一花を見ていて、私も恋がしたいなぁと思ったのは否めない。

 あの時もし恭介に恋をしたら違っていたのだろうか。でも恭介は大事な友達で、それ以上でもそれ以下でもなかった。

 智絵里は恭介の頭を撫でる。好きだった人に裏切られて、それ以降男の人との接触は避けてきた。だから恋の仕方も進め方も知らない。ただ自分のことを知ってる恭介だから、自然体でいられることはありがたい。

「ん……」

 目を覚ました恭介は、目の前に智絵里がいることに一瞬固まり、頭を回転させて昨日のことを思い出して笑顔になる。

「おはよう、智絵里」
「……おはよう」
「なんかすごいな……智絵里が目の前にいて、しかも俺の彼女だなんて」
「……改めて言わないで。恥ずかしいから」
「なんで?」
「……私は恭介と違って、そういうことに免疫がないのよ」
「……つまり、これから俺とすることが全部初めてになるわけだ。すごい、なんて優越感」

 恭介はニヤニヤ笑うと、智絵里の手に自分の手をそっと重ねる。

「本当はもっと触りたいけどね、智絵里から言われるまでは我慢するよ」

 そう言われてドキッとする。私、今まで恭介とどういう距離感でいたんだっけ? わからなくて混乱する。
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