熱く甘く溶かして
「話を聞いたら、出されたお茶を飲んだ途端に眠気に襲われたらしい。目が覚めると長椅子に横たえられていて、下半身に違和感。怖くなって逃げ出して、保健室に駆け込んだんだ」
智絵里はゾッとした。まるで自分の話を聞いているかのようだった。恐怖心と戦いながら、縋るような思いで恭介の手を握る。すると恭介は智絵里の肩に手を回し抱き寄せる。
「調べてみたら、被害の相談は受けているのに、届けは出ていない。みんな怖くて声をあげられなかったんだ」
睦月はハンカチで口元を押さえ、早川の話を聞いていた。
「俺がどうして畑山に辿り着いたかというと、被害者の子たちの共通点にあるんだ」
「……もしかして吹奏楽部……?」
早川は頷く。
「それも卒業間際の三年生ばかり。毎年相談があるわけじゃない。俺たちの年には相談がなかったが、吹奏楽部、卒業間際に様子がおかしかった女生徒といえば……畑山しか思い浮かばなかった」
今の話を聞きながら、智絵里の脳裏にあの時に感覚が蘇ってくる。被害に遭った女生徒の話と自分の体験が重なって、まるでつい先ほどの出来事のような感覚に陥る。
「畑山も被害者なのか?」
早川に問いかけられ、智絵里は力なく頷いた。
「まるっきり同じ……。あれをずっと繰り返してただなんて……一体何人の子が被害者なの……」
「……智絵里ちゃんが被害に遭っていたなんて知らなくて……でも……私にも警察にもあの男を捕まえることが出来ないの……。こんなこと智絵里ちゃんに頼んだら苦しみを倍増させることになるのもわかってる。でもあの子を苦しみから救って欲しいの……。あの男を捕まえて、安心させてあげたい……」
あの男を逮捕するために、私に証言をして欲しいということ。
「……少し考えさせてくれる?」
証言しよう。そう思い始めていた。それなのにあの男を前にして、智絵里の中に迷いが生まれてしまった。